令和4年9月【学校長の部屋】鴻池小

更新日:2022年10月01日

成功の条件はVWにあり

令和4年9月28日(水曜)

  体のさまざまな組織の細胞になる能力がある「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を開発し、2012年のノーベル医学生理学賞を受賞した京都大学iPS細胞研究所長・教授の山中伸弥さん。そして、宇宙科学研究所において「さきがけ」「すいせい」「ひてん」「GEOTAIL」「のぞみ」「はやぶさ」「IKAROS」などの科学衛星ミッションに携わり、「はやぶさ」ではプロジェクトマネージャを務めた川口淳一郎さん。この2人の対談(「夢を実現する発想法」(致知出版社))の中で、山中さんは1993年にアメリカのサンフランシスコのグラッドストーン研究所の当時所長だったロバート・メイリー博士から非常に大切な言葉を学んだという話をされています。「成功の条件はVWにあり」です。「VW」といってもフォルクス・ワーゲンではありません。「VW」の「V」は、Vision(ビジョン)です。「W」は、Work Hard(ワークハード)です。「長期的な目標を立て、それを実現するために一生懸命働く」という意味です。どちらが欠けてもいけません。山中さんは、科学者として、人間としても成功するためには、Vision(ビジョン)とWork Hard(ワークハード)の両方が不可欠と教えられ、自分自身を顧みたそうです。そして、自分自身にVision(ビジョン)がないことに気づき、「自分の長期目標は何だろう?」と深く考えたそうです。それ以後、常にこの言葉を胸に仕事に取り組んでいるといわれています。日本人は、Work Hard(ワークハード)については得意で、夜遅くまで、また土日も働く人が大勢います。しかし、いつのまにかVision(ビジョン)を見失い、なんのために働いているのかわからない状態に陥ってしまうことがあります。山中さんは、高校生への講演の中で次のようなことも言われています。「みなさんは勉強で忙しいと思いますが、よく考えてみると、テストでいい点を取るのが勉強の目的ではないはずですよね。何かやっぱり目的があって勉強をしているはずで、ビジョンというのは長期目標ということであると思いますけど、自分にとってのビジョンは何なのかと、忙しいと思いますけど、勉強の合間にちょっと考えたらどうかなと思っています」と。日本人にとって不得意なVision(ビジョン)を育てること、それには教育が大切であると強調されています。自分の夢や目標を叶えるためにも、また、これからのグローバル社会のなかで、世界で活躍する人となるためにも、ぜひともVision(ビジョン)とWork Hard(ワークハード)の意味するところを考え、実行してほしいと思います。

SDGs(持続可能な開発目標)

令和4年9月21日(水曜)

  「SDGs(Sustainable Development Goals)」(持続可能な開発目標)は、2015年9月に開催された国連サミットにおいて、先進国を含む国際社会全体が達成すべき目標として採択されたものです。貧困、飢餓、保健、教育、安全な水、エネルギー、雇用、イノベーション、不平等、気候変動、海洋資源、平和など、「SDGs」は、「誰一人取り残さない」社会の実現を目指して、2030年を期限とする包括的な17の目標及び169のターゲットにより構成されています。学校教育においても、「ESD(Education for Sustainable Development)」(持続可能な開発のための教育)が、学習指導要領、前文及び総則において、「持続可能な社会の創り手」の育成が掲げられております。今、世界には気候変動、生物多様性の喪失、資源の枯渇、貧困の拡大等人類の開発活動に起因する様々な問題があります。「ESD」とは、これらの現代社会の問題を自らの問題として主体的に捉え、人類が将来の世代にわたり恵み豊かな生活を確保できるよう、身近なところから取り組むことで、問題の解決につながる新たな価値観や行動等の変容をもたらし、持続可能な社会を実現していくことを目指して行う学習・教育活動です。「SDGs」の17の目標の実現のためには、持続可能な社会の担い手を育成する「ESD」の教育はなくてはならないものであるとされています。

  まずは、全ての教師が「SDGs」について理解することです。次に教科学習の中で「SDGs」の17の目標を授業の中で関連づけて、取り組んでみることです。教科学習の中で知らず知らずに「SDGs」に触れています。そこで獲得した知識・技能を一歩踏み込んで「SDGs」につなげていくことです。目標に迫り、深く考えさせることで、子どもたちは自ら主体的に持続可子どもの心に火をつける取り組みをやっていきませんか。子どもの心に火をつける取り組みをやっていきませんか。全ての教科で行うわけではなく、「この教科のこの単元では、『SDGs』について考えさせたいな」、「この単元は『SDGs』を考えさせるのにぴったりだな」と思う単元でつなげていくことです。例えば、5年生の社会科「これからの食料生産わたしたち」の学習を通して、食料自給率や、食料生産の課題等、日本の食料生産の危機的状況について理解します。また、これらの課題は、「SDGs」と深く関わり、持続可能な社会をつくるための探究活動のきっかけとなります。持続可能な食料生産の実現とうことであれば、目標2「飢餓をゼロに」と大きく関わっています。食料生産と環境ということに目を向けると、目標13「気候変動に具体的な対策を」や目標14「海の豊かさを守ろう」、目標15「緑の豊かさを守ろう」に関係しています。さらには、フードロスの問題などを考えると、目標12「つくる責任つかう責任」と関係してきます。2年生の「町たんけん」でも「「SDGs」との関わりを見ることができます。町たんけんを通して知る地域の方々の努力や工夫は、目標11「住み続けられるまちづくりを」に関係しています。

  このように各教科で「SDGs」につなげることができます。教科の枠に縛られないということであれば総合的な学習の時間を活用し、「ジェンダー」や「福祉」などの課題に取り組むこともできます。今、SDGsの17全ての目標実現に向けた教育の役割は大変大きく、同時に子どもたちに「持続可能な社会の構築」という視点に立って、知識・技能に留まらず、実践していく力を育成する意味でも大きな活動となります。

「継続は力なり」2

令和4年9月14日(水曜)

  ルイス・キャロル作『不思議の国のアリス』は、世界中の国々で愛される作品です。150年以上経過した今でも、不屈の名作として読みつがれています。

  物語の中で不思議な国で道に迷ってしまったアリスは、出会った猫に話しかけます。「ここからどの道を行けばいいか、教えてもらいたいのだけれど」。猫は「どこにいきたいかによるけど?」と答えます。アリスは「どこかへ辿り着きたいの」と答えると、猫は、「だったらどっちへ行こうが、どこかへ辿り着くまで歩けばいいのさ」と。どこかに行きたいのであればとにかく進むしかありません。あきらめて立ち止まってしまえば、そこで終わりになります。目標を持って前に進めば何かをきっと得ることができるということを考えさせられる物語です。

  一つひとつの小さな積み重ねにより結果を示してくれたのが、このほど、大リーグのマリナーズの殿堂入りを果たしたイチロー選手。「小さいことを積み重ねることが、とんでもないところに行くただ一つの道です」、この言葉は2004年にイチロー選手がMLB記録であったジョージ・シスラー氏の84年間破られることのなかったシーズン257安打を抜いた時の言葉です。夢や目標を達成するには、小さなことをコツコツと積み重ねていくことの大切さを教えてくれています。まさに「継続は力なり」です。これにより、誰も辿り着いたことのないとんでもないところに行くことができます。どんなことがあっても継続し、努力し続け、大きな偉業を成し遂げた人が天才と呼ばれるのだと思います。

  今、学校では、算数の基礎学力の定着が大きな課題です。そのため、各学年で算数の何が課題なのかを学年で共通理解を図り、学年として取り組むこととしています。その一つが、15分の朝学習の徹底です。たった15分、されど15分。やるとやらないでは大きな差が出ます。1週間で75分、1ヶ月を20日として300分(5時間)、1年で60時間にもなります。これは、単位時間(1時間を45分)にすると、80単位時間になります。この時間を無駄にするわけにはいきません。こつこつ積み上げていくことで、素晴らしい力がつきます。都合のいい理由をつけてさぼっていては、自分の夢や目標を達成するための力はつきません。繰り返し繰り返し続けることで大きな力となります。「継続は力なり」です。

TTP(徹底的にパクる)

令和4年9月7日(水曜)

  人間が生きていく上で必要な力について、齋藤孝さんは、著書「『まねる力』模倣こそが創造である」(朝日新書)の中で、子どもたちに伝えたい3つの力について、1段取り力 2コメント力 3まねる力と提言しています。その中でも「まねる力」さえあれば、なんとか社会で暮らしていける、生きるための最低限のことをクリアできると言っています。「まねる力」とは、人のやることをよく見て、その本質を掴み、技を盗んで自分のものにできる能力のことです。

  例えば、学校でも、今、体育大会に向けて表現の練習をしています。「先生の動きをよく見て真似てください」と、先生自ら手本を見せ、子どもたちがそれを真似することから入っていきます。教師の動きと、まずは同じように動こうとして一生懸命に動きを見て、技を盗もうとします。それが子どもたちの基礎・基本となっています。そこから、音楽に合わせたもっといい表現をするためにどうしたらいいのかを試行錯誤します。先生に追いつき、先生を超えるために子どもたちは努力します。そして、子どもたちは一つ一つ大きく成長していきます。算数の授業でも国語の授業でも同じです。テストで再生する力ではなく、教科書を使って指導する先生と同じように授業ができる力をつけることです。最初は真似であっても、子どもたちは自分なりの表現方法を身につけます。つまり「守破璃」です。「守破離」とは、日本の茶道や武道・芸能などにおける師弟関係・修行の段階の在り方のひとつです。「守」は、師の教えや型を確実に身につける段階です。「破」は、師の教えや型を、他の良いものを取り入れて深め広げる段階です。最後の「離」は、師の教えや型を離れ、独自の新しいものを生み出す段階です。「守」は基本であり、基本ができていないと、壁にぶつかったときに問題を自分で解決することができません。「璃」の段階に進んだとしても決して別のものになったわけではなく、「守」の延長線上にあり、「基本」の上に立っていると言うことです。アメリカの実業家ジェームズ・W・ヤング氏は、1940年刊『アイデアのつくり方』の中で「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何物でもない」と、つまり、あらゆる創造は、模倣から始まると言っています。「真似る」とは、「まねぶ」から生まれた言葉で、「学ぶ」と同じ語源とされています。つまり、「真似る」とは、「学ぶ」ことに他なりません。

  イノベーションが求められる現代において、新たなアイデアが求められています。何もない状態から新たな発想は生まれてきません。既存の要素をつなぎ合わせることで新たな関連性を見つけ出すこと、これがイノベーションにつながる発想力です。「TTP(徹底的にパクる)」と言われるように、何かスキルを身につけたい時に人を真似るのは大事なことです。絵画の巨匠パブロ・ピカソの名言に「優れた芸術家は真似る。偉大な芸術家は盗む」とあります。偉大な芸術家もひらめきから出てくるわけではなく、まずは模倣からはじめて、そして「盗み」自分の作品をつくっていることがわかります。誰でも最初は「真似る」ことから始めます。これが「学び」の基本です。

  子どもたちの「学びの充実」を図る上でも、まずは、身近にいる人をロールモデルにTTP(徹底的にパクる)、やってみませんか。子どもとの信頼関係づくりや学級づくり、授業づくりなどの手法を自分のものにして、魅力ある教師をめざしましょう。

天災は忘れた頃にやってくる

令和4年9月1日(木曜)

  今日、9月1日は「防災の日」です。以前であれば2学期始業式の日だったのですが、ここ数年は始業式の日が早くなったため、忘れがちだった「防災の日」のことを考えるきっかけにもなりました。言わずもがな、9月1日が「防災の日」となったのは、1923(大正12)年9月1日に発生した関東大震災が由来しています。そして、「防災の日」が制定されたのは、1959年に発生した伊勢湾台風による甚大な被害から、防災対策を見直し、防災に対する意識を高めることから制定されました。また、「防災の日」を含む1週間は「防災週間」とされました。「地震・雷・火事・親父」と言われるように、世の中で恐ろしいものは、全て自然災害(地震・雷・火事・台風)です。えっと思われる方もいるかもしれませんが、「親父」とは「大やまじ」、つまり台風のことです。特に強い暴風の「大やまじ」から、「おやじ」になったようです。

  「天災は忘れた頃にやってくる」という言葉があります。これは、物理学者・防災学者の寺田寅彦が残した警句です。ちなみに寺田は、夏目漱石の第五高等学校(現熊本大学)時代の教え子です。漱石が主宰する俳句結社に参加し、一番弟子としてずっと文学的な活動もしてきた人です。また、漱石の小説『吾輩は猫である』に登場する水島寒月は、寺田がモデルとされています。「天災は忘れた頃にやってくる」を教訓に、日頃から備えを万全にしておかなければなりません。

  阪神淡路大震災から27年、東日本大震災から11年、熊本地震から6年、近年では、線状降水帯による大雨の被害も多発しています。線状降水帯は、正確な予測は難しく、線状降水帯が発生しなくても大雨となる可能性が高いといわれています。これから台風の季節でもあります。いざというときに慌てず行動ができるよう、過去の教訓を活かし、防災力を高めておきましょう。備えあれば憂いなしです。