令和3年10月【学校長の部屋】

更新日:2021年10月26日

自分に恥じない生き方

令和3年10月26日(火曜)

  教育は、先生や学校に対する信頼の上に成り立ち、子どもが先生を信頼できないところに教育は成り立ちません。また、保護者や地域が学校を信頼できないところにも理解と協力は生まれません。教育に対する信頼とは、『能力に対する信頼』です。学校や先生は、子どものためにしっかり成長させてくれる『技量』と『能力』を持っているという信頼です。そして『意図に対する信頼』です。学校や先生は、子どものためにならないことは決してしないという『意図』に対する信頼です。教育の専門家として使命感を持って教育活動を担うことが大切です。未来を担う子どもたちのために教育的愛情を持って教え育むことです。

  しかしながら、体罰や非違行為など、様々な不祥事が後を絶たない状況です。特に子どもの人権を踏みにじるような体罰や暴言はあってはならない行為です。体罰については、学校教育法で明確に禁止された行為であり、違法行為であるだけではなく子どもの心身に深刻な悪影響を与えます。体罰や暴言では、子どもに正しい倫理観を養うことはできません。

  また、児童虐待も後を絶たない状況にあります。大人が自分の感情にまかせて子どもを力でコントロールしようとすることは、しつけではなく虐待です。度が過ぎると警察に逮捕される時代です。「子どもが育つ魔法の言葉」の著者ドロシー・ロー・ノルトの「子ども」の詩に「殴られて大きくなった子どもは、力にたよることをおぼえる」という一節があります。

  学校では、日ごろから一人一人の子どもたちの言葉に耳を傾け、その気持ちを敏感に感じ取ることを基本にしています。子どもを指導しなければならない事象に対しては、事象が起こったその場で、時間を空けずに子どもにわかるように指導しなければなりません。大声で指導をしたり、子どもを力づくで連れて行ったりすることは、その子どもの人格を否定する行為です。子どもが間違いや過ちをした場合、その意味を説明し、説得し、周りの人の気持ちを説明し、正しい行動を示すなど、非常に手間がかかり、忍耐も必要です。教育のもとに指導するとは、子どもの行動を変容させ、生き方を教える指導です。

  「子どもは親の背中を見て育つ」という言葉の「親」を「大人」に変えて、子どもたちは、毎日の生活の中で意識することなく、大人の言葉や行動を見て吸収しています。しっかり大人の行動を見ているということです。子どもに恥じない、そして、自分に恥じない生き方ができるよう、私たち大人もいろいろな意味で頑張らなければなりません。最後に、先ほどのドロシー・ロー・ノルトの「子ども」の詩の最後の一節には、「可愛がられ、抱きしめられた子どもは世界中の愛情を感じることをおぼえる」とあります。子どもが心身ともに健やかに育つことを切に願います。

イノベーション

令和3年10月19日(火曜)

  イノベーションという概念の提唱者は、オーストリアの経済学者であるヨーゼフ・シュンペーター(1883~1950年)です。シュンペーターのことについて、清水洋著書の「野生化するイノベーション-日本経済の『失われた20年』を超える」(新潮選書)の中で創造的破壊(イノベーション)こそが経済成長を導くと主張したのがシュンペーターであると述べています。それが20世紀初頭というから既に100年も前にイノベーションについて考えられていたことになります。また、著書の中では、イノベーションとは、経済的な価値を生み出す新しいモノゴトと、大切なことは「経済的な価値」と「新しい」という2つの要素であると。これまでの常識が一変するような新たな価値を創造することです。イノベーションがいかに私たちの暮らしを豊かなものにしているか。一方でイノベーションには、「破壊する」という側面もあります。既存のやり方を破壊して、新しく創造することが必要となる。これをシュンペーターは、イノベーションと定義し、既存のやり方を創造的に破壊するイノベーションを実現する人物を、企業家(アントレプレナー)と呼びました。マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ、アマゾン共同創業者のジェフ・ベゾス、アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズ、日本でも渋沢栄一や松下幸之助、本田宗一郎なども実際にイノベーションをおこした企業家です。「戦後日本のイノベーション100選」というものがあります。公益社団法人発明協会が発表したものですが、トップ10の中には、「インスタントラーメン」や「マンガ・アニメ」、「新幹線」、「ハイブリッド車」、「ウォシュレット」などが選ばれています。近年では、「リサイクル・リユース」が国民的イノベーションとして選ばれています。

  さて、教育とイノベーションについて考えたとき、今まさに取り組まれている「GIGAスクール構想」、「GIGA」とは「Global and Innovation Gateway for All」を略したもので「全ての人にグローバルで革新的な入口を」という意味になります。令和の学びの 「スタンダード」として、ICTを積極的に活用し誰一人取り残すことなく、子どもたち一人一人に個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現を目指した施策です。子どもたちの新しい学びの環境を作ることに国をあげて取り組む一大プロジェクトです。これが「個別最適化された学び」を可能とする授業改善の推進やデジタル教材の活用、学習環境の提供等、既存のやり方を創造的に破壊するイノベーションを実現するものとなるのでしょうか。

『いじめ』と向き合う!

令和3年10月12日(火曜)

  大津の中学生がいじめを苦に自殺してから、10年を迎えました。このことが大きく社会問題化したことをきっかけに「いじめ防止対策推進法」が施行されました。この法律を受け各学校では、「学校いじめ防止基本方針」を策定しました。そのような取組にもかかわらず、いじめが原因と疑われる自殺事案は後を絶たない状況にあります。文科省の調査によると、2019年度のいじめの認知件数は、前年度より約6万8千件増え、過去最多の61万件を突破しました。また、小学校での増加傾向が続き、特に低学年で多い状況にあると分析しています。いじめの態様については、「冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」が61.9%と最も多く、ついで「軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりする」21.4%という結果が出ています。『いじめ』は、人として決して許されない行為です。しかしながら、どの子どもにも、どの学校にも起こり得る可能性があります。

  では、改めて『いじめ』ってどんな行為のことをいうのでしょうか。例えば、友だちが失敗をしたことやちょっと違った行動をしたときに、その行為を笑うこともいじめです。「ねえ、ねえ ○○ちゃんと話すのやめよ」と、その子が来たら急におしゃべりをやめたり、逃げたり、一人ぼっちにしたりするのもいじめです。遊ぶふりをして、叩いたり、蹴ったりする暴力もいじめです。友だちの物を取ったり、隠したりすることもいじめです。「うざい」「キモイ」「死ね」の暴言や机やノートへの落書き、スマホやタブレットなどSNSを利用した書き込みなどもいじめです。『いじめ』は、被害を受けた人が心や体に苦しさや痛みを感じたら『いじめ』なのです。いじめられた人の心には、たくさんのいじめの矢が突き刺さります。この心はこれからどうなるでしょう。心が引き裂かれたり、壊れたりしてしまうかもしれません。学校に来られなくなる人 家から出られなくなる人 死んでしまう人、心が壊れてしまう前にいじめの矢を抜かないといけません。でも、いじめの矢は、いじめられている本人は抜くことができません。「一人じゃないよ」「ぼくと一緒にいればいいよ」「私がついているよ」「味方だよ」と、優しく声をかけてくれる友だちがいたら、心に突き刺さった矢を抜くことができるかもしれません。仮にいじめの矢を全部抜いたとしても、いじめの傷跡はずっと残ります。消えないのです。10年経っても20年経っても忘れることはできません。だから、いじめは絶対にいけないし、なくさなければならないのです。

  自分はいじめているつもりでなくても、結果的にいじめになってしまう場合もあります。相手の気持ちを考えるということが大切です。私たち教師は、アンテナを張って、子ども一人一人を丁寧に見つめること、子どもそれぞれの良さを認めること、自分は愛されているのだと実感させることなど、子どもの心と命を守る必要があります。

学びは好奇心から

令和3年10月11日(月曜)

  今年のノーベル物理学賞に米プリンストン大学上席研究員の真鍋淑郎さん(90)が決まりました。日本人のノーベル賞の受賞者は、28人目となります。物理学賞の受賞者は湯川秀樹さんから12人目となります。真鍋淑郎さんは、会見の中で「最もおもしろいのは、好奇心に基づいた研究だ」と語っていました。その真鍋淑郎さんは、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の上昇が地球の温暖化の原因であることを科学的に示し、現在、世界的に進められている脱炭素の動きに大きく影響を与えるものとなりました。60年以上、気候変動について研究をしてきた真鍋淑郎さんは、会見の中で何度も「キュリオシティー(好奇心)」という言葉を繰り返し使い、研究にかけてきた情熱を表現されていました。そして、「研究の醍醐味は好奇心である。なぜこんなことが起こるのか、そういう研究をしていくことがいい」と、若い研究者に向けてエールを送られました。また、なぜ日本からアメリカ国籍に変えたのかの質問に対して、「日本人は、いつも互いに迷惑をかけまいと気をつかいます」と、協調的な関係を結ぼうとすると述べています。一方、アメリカでは自分が好きなことができ、周囲がどう感じているかは気にしないとも述べられています。最後に日本に帰らない理由の一つとして「私は協調しながら生きることができない」と。ここに、日本の教育の在り方について、問題提起されているように感じます。

  話を「好奇心」に戻しますが、真鍋淑郎さんが、研究にかけてきた情熱を「好奇心」という言葉で何度も表現していました。広辞苑によれば「好奇心」とは「珍しい物事、未知の事柄に強く気持ちがひかれること」とあります。

  子どもたちの中には、「どうして勉強をしないといけないの」と思ったことのある子どももいることでしょう。私もその一人です。「何で勉強するの」、テストでいい点数をとるため、そして、いい成績を収めるためでしょうか。多くの子どもが何で勉強するの、そして、勉強はたいへんだと思っていることでしょう。本来の勉強の楽しさは、成績のためとか点数のためにではなく、学ぶことそれ自体が楽しいからということでないといけません。2008年にノーベル物理学賞を受賞し、今年7月に逝去された益川敏英さんは、「子どもたちには学問を勉強のようにやらなくてはいけないものと捉えるのではなく、『学問と遊ぶ』ように楽しむことができることを知ってもらいたい」と語っていました。まさに好奇心です。教育現場には“学ぶことは楽しい”と思わせる雰囲気が必要です。学ぶ意欲をはぐくむ上で、教師は、子どもにとって特に重要な人的環境です。「先生は、自分のよいところを見てくれている」「温かい目で見守ってくれている」「自分に期待をかけてくれている」と思えることが、学ぶ意欲の土台となり、安心感につながります。

皆の力が結集した体育大会

令和3年10月6日(水曜)

  新型コロナウイルス感染症の影響で、例年とは大きく違う形となった第40回体育大会を10月2日(土曜)、晴れ渡った青空のもと無事に開催することができました。一人一人の笑顔が輝く、心に残る体育大会になりました。

  保護者の皆様には制限がある中での参観にご理解ご協力をいただきました。そのお陰で会場が混乱することなく、子どもたちが練習の成果と努力を存分に発揮し、力一杯演技する姿を保護者の皆様に見ていただくことができて安心しました。全てのことが初めてのことで、私たち職員は、「思い出に残る体育大会にしよう」を合言葉に英知と努力を結集して取り組んできました。体育大会当日はもちろんのこと、練習時においても3密を避けるなど、コロナ対策を講じながら安全に安心して実施するためにはどうしたらよいか、一人一人がそれぞれの立場で当日に向けて準備を進めてきました。さらには、 体育大会当日には、PTA役員の皆様には、受付業務を受け持っていただきました。PTA役員の皆様にも、この体育大会に向けて事前にシミュレーションを行っていただき、安全で安心してスムーズに保護者の方の入れ替えができるよう案を練っていただきました。おかげさまで保護者の入れ替えがスムーズに進みました。多くの皆様の力が結集して完成した体育大会でした。子どもたちにとって思い出に残る素晴らしい体育大会になったことと思うと同時に、体育大会を通して一回り大きく成長したことと思います。まだまだコロナ禍の状況は続きますが、職員と保護者の力を結集し今後の教育活動も充実させていきたいと思います。引き続きご協力のほどよろしくお願いいたします。