令和3年6月【学校長の部屋】
人間力
令和3年6月28日(月曜)
先般、本校視聴覚室にて、令和3年度第1回学校運営協議会を開催しました。学校運営協議会では、学校経営戦略について、話をさせていただきました。学校のミッション(使命・存在意義)とは何か、それは、「子どもたちが、未来に夢を持ち、心豊かにたくましく生き抜いていけるよう、主体的に考え、学び合う児童の育成を通して、保護者・地域の信頼に応える学校」にしていくことにあります。そして、めざす子ども像、めざす学校像、めざす教師像といったビジョン(将来あるべき姿)を明確にし、進むべき具体的な方向を明らかにすることです。このようにミッション、ビジョン、具体的な行動と説明をさせていただいたのですが、運営協議会委員さんから、めざす教師像にある「人間力」を高めるために学校ではどのように研修をしているのですかという質問を受けました。教師一人一人が心身共に健康で、人間的な魅力にあふれ、子どもや保護者、地域から信頼される教師となるよう研修会を通して、教師自身の自己肯定感を高める取り組みや信頼される教師の信頼とは何か、教師がこんなことをするはずがないという「意図に対する信頼」、教科の専門性に優れているという「能力に対する信頼」を、裏切らない取り組みを進めることですと答えさせていただきました。
「人間力」とは何か。「人間力」については、平成14年11月に設置された「人間力戦略研究会」が「人間力戦略研究会報告書」(平成15年 4 月)の中で定義しています。それによると、「人間力」とは、「社会を構成し運営するとともに、自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」と定義されています。具体的には、「人間力」の構成要素に着目すると、
1 「基礎学力」、「専門的な知識・ノウハウ」を持ち、自らそれを継続的に高めて いく力。また、それらの上に応用力として構築される「論理的思考力」、「創造力」などの知的能力的要素
2 「コミュニケーションスキル」、「リーダーシップ」、「公共心」、「規範意識」や「他者を尊重し切磋琢磨しながらお互いを高めあう力」などの社会・対人関係力的要素
3 上記1,2の要素を十分に発揮するための「意欲」、「忍耐力」や「自分らしい生き方や成功を追求する力」などの自己制御的要素
としています。
このように改めて、人間力について考えると、教師自らが人間力を高めることが、未来に夢を持ち、心豊かにたくましく生き抜いていけるよう、主体的に考え、学び合う子どもの育成につながるものと考えます。教師主導ではなく、子どもが主体となって活動できるよう働きかけている教師、そのことを土台として、信頼される教師となるよう日々研鑽が必要であると感じました。
授業力のために
令和3年6月22日(火曜)
学習院大学文学部教育学科特任教授の佐藤学さんは『専門家として教師を育てる』の中で、21世紀の教師は「教える専門家」から「学びの専門家」へとシフトしていると述べています。この変化に伴って、授業技術を中心とするものから、子どもの学びのデザインとリフレクション(省察)を中心とするものへと変化しているとも述べられています。教師は一人では学び成長することはできません。まずは教室を開き、授業実践を通して、専門家として学び合える同僚性を構築していくことが何よりも大切です。
子どもたちが、自ら課題を発見し、その解決に向けて主体的・協働的に探究し、学びの成果等を表現し、実践に生かしていけるようにするためには、教師の授業力の向上に他なりません。「授業力」とは、授業の「ねらい」の達成を目指し、授業を適切にマネジメントする能力のことを言います。つまり、子どもの学習状況に合わせた単元計画、目の前にいる子どもの学びを見取る力、子どもの立場に立った発問や板書、ノート指導、助言、グループ学習への支援などの指導技術、そして、学習の成果を的確にとらえ、授業全体を振り返り、成果と課題を明確にできる力、研究授業を主体的に行い、目標とする授業のイメージをしっかりもって工夫・改善に努め、組織の中で高めていこうとする力のことです。
今日、4年生の先生が社会科「ごみのゆくえ」の授業公開をしました。一番に感じたことは、学習の場にふさわしい環境を整えられ、教師や友だちの話を聞く姿勢ができているなと感じました。教師自身が率先して規律を守る姿勢ができているからこそ、子どもたち自らが学習態度を自律的に創造するものになっているのではないでしょうか。しかも、規律だけではありません。子どもたちが学習にいきいきと参加し活気のあるクラスになっていることです。学習規律の確立は、「分かる授業づくり」と密接に関係し、効果的な教育活動の基盤となります。
そして、何よりも今日もたくさんの先生方が、貴重な時間を割いて授業の参観に来られたことが大変うれしいことです。教師一人一人が、子どもたちの学び続ける姿勢を育むために「学びの専門家」として、教員同士が校内研修で学び合う「学校文化」が生育されているということです。
学級力向上プロジェクト
令和3年6月15日(火曜)
学級経営をしていると6月クライシスや11月クライシスと呼ばれる学級の危機、学級が不安定になる時期があります。小さなトラブルが学級崩壊に発展することもあります。忙しい4月をなんとか乗り切り、学級のルールも徹底したはずなのに、どこかほころびが出始めます。また、今年はコロナの影響もあり、行事が延期されたり、制限があったりと子どもたちのストレスもマックスです。特に大きな行事がなく、子どもたちは目標を見失う時期でもあります。
自分のクラスを居心地のよい学級にしたいと思うのは教師なら誰でもです。居心地のよい学級とは、自分の居場所があるということです。安心して学校生活を送ることができる環境が整った学級であり、子どもたちが「明日も学校に行きたい」と思えるような学級づくりが大切になります。早稲田大学教育・総合科学学術院大学院教育学研究科教授の田中博之先生が提唱する「学級力向上プロジェクト」は、子どもたちが学級づくりの主人公となって学級力を高めるため、学級力アンケートで自分たちの学級の様子を自己評価し、毎日の学習や遊びの中で実践的な仲間づくりを行っていく活動です。「明日も学校に行きたい」と思える学級をつくるために、教師と子どもたちが協力して学級づくりを行える、新たな学級経営システムを提唱しています。また、学級力とは、「学び合う仲間としての学級をよりよくするために、子どもたちが常に支え合って目標にチャレンジし、友だちとの豊かな対話を創造して、規律を守り安心できる環境のもとで協調的な関係を創り出そうとする力」と定義されています。
6月1日に「学びに向かう土台作り」でも書きましたが、 本校では、6年生の先生たちが子どもたちの学力向上のために、子どもたちが安心して学習できる環境をまずは整えていこうと考え取り組みを進めています。さらには、「子どもと共につくる学級」をテーマに学級経営のあり方を個々の学級担任に任せることなく学年として見直しをしていこうとしています。5月に行った「学級力アンケート」では、学級力を「目標をやり遂げる力」「自立する力」「話をつなげる力」「友だちを支える力」「安心を生む力」「きまりを守る力」とし、学級のアンケートをレーダーチャートに落とし込みました。そこから見えてきたいい点については、子どもと共に認め合い、課題については、子どもたちが主体となって学級をどうしていけば変わるかを具体的に出し合う中で、前向きな目標を設定することができています。今回の結果では、勉強、運動、掃除、給食などで教え合いや助け合いをしている学級など、支え合いについては、高いポイントとなりました。一方、授業中に無駄なおしゃべりをしない学級については、低いポイントとなりました。レーダーチャートの結果を示し、子どもたち自身が主体的に「何がよくて」、「何が課題なのか」を考えると共に、よりよい学級にするためにどうしたらいいか話し合いをしました。その中では、子どもたちの具体的な意見が交わされ、新たな目標を子どもたち自らが設定し、目標を見失うことなく取り組みを進めることができています。
チームケミストリー
令和3年6月8日(火曜)
学校が抱える課題が複雑化・多様化する中、これらの課題に的確に対応し、学校運営を円滑に推進していくためには、教職員一人ひとりの資質能力の向上に加えて、学校の運営組織体制や指導体制の改善・充実を図り、組織としての教育力や課題解決力を高めていくことが、より一層重要となってきています。
スポーツの世界では、「チームケミストリー」という言葉をよく使います。「ケミストリー」とは、「化学」や「化学現象」「化学反応」という意味がありますが、人間同士の「相性」という意味で使われる場合もあります。スポーツの世界で使われる場合の「チームケミストリー」とは、「親和性」「チームの結束」と言えばいいのでしょうか。チームに所属する選手同士が連携し合い、チームとして高い能力を発揮して成果を上げる状態を「チームケミストリー」が高い状態にあると言います。能力のある選手が自発的に意欲を持ってプレイしても、その方向性がバラバラであったり、互いに反発し合ったりするようでは、「チームケミストリー」は生まれません。所属する選手同士が相互に理解し合い、コミュニケーションを取ることもが重要です。また、能力が高い選手同士の場合では、相手のしぐさや表情のみで言葉を交わさなくても相互に通じ合い連係プレイを図ることができます。チームが一つにまとまり、目標に向かっていくことができると、選手一人ひとりのモチベーションは自然と高まっていきます。例え、チームが試合に負けたとしても痛みを分かち合う仲間があり、その痛みを乗り越えて共に頑張ることができます。
学校という組織の中でも、「チームケミストリー」の必要性を感じます。鴻池小学校のミッションとは、子どもたちが、未来に夢を持ち、心豊かにたくましく生き抜いていけるよう、主体的に考え、学び合う児童の育成を通して、保護者・地域の信頼に応える学校を築いていくことです。そのために「ひとみ輝き 笑顔あふれる 鴻池小学校-『やってみよう!』と言える子どもを育てる-」を学校の共通の目標として、その達成に向けて、計画的、継続的に教育活動を進めています。教職員には多様な資質能力が求められ、教職員一人一人が必要な知識、技能等を備えることが不可欠です。しかし、全ての教員が多様な資質能力を身につけているわけではありません。様々な能力を有する個性豊かな人材によって構成される教職員集団が連携・協働することにより、「チームケミストリー」を生み、組織全体として充実した教育活動を展開していけるものと考えます。
「小善」と「大善」
令和3年6月2日(水曜)
コペンハーゲン生まれの哲学者、セーレン・キェルケゴール(1813-1855)が残した「野鴨の哲学」というお話があります。
デンマークの首都コペンハーゲンのジーランドというところには、美しい湖があり、その湖には、毎年遠くから野生の鴨の群れがやって来ます。そこに住む優しい老人が餌をたっぷり用意して待つようになりました。渡り鳥である鴨は、容易には餌付けされません。しかし、毎年繰り返される饗応に、やがて野鴨たちは「何も苦労して次の湖へ飛び立つ必要はない」と思ったのでしょうか。とうとうそこに住み着いてしまいました。
ある日、老人が亡くなり、餌をもらえなくなった鴨たちは、自力で餌を探し、次の湖へ旅する必要にかられました。ところが、快適な環境に慣れてしまい、野生の羽ばたきができなくなっています。そこへ近くの山から雪解け水が激流となって湖になだれ込んできました。ほかの鳥たちは丘のほうへ素早く飛び立ちますが、かつてたくましい野生を誇った鴨たちは、なすすべもなく激流に飲み込まれてしまいます。
この話に感銘を受けた人物が、世界的グローバル企業の一つであるIBMの創業者トーマス・ワトソンです。彼は困難にたちむかう渡り鳥の精神、野鴨の精神こそ、IBMの社員には必要であると説き「Wild Ducks(野鴨たれ)」を合言葉にIBMを世界的企業に育て上げました。従業員が3900名になった時に、父の哲学を受け継いだ息子のトーマス・ワトソン・Jrは、「3900羽の野鴨たち」という本を出版しました。アメリカでベストセラーにもなり、アップルの創業者のスティーブ・ジョブズも読んでいました。この著書の中で「「野鴨は馴らすことはできる。しかし馴らした鴨を野性に返すことはできない。馴らされた鴨はもはやどこへも飛んでいくことはできない」と述べています。
「小善は、大悪に似たり、大善は、非情に似たり」。小善は、一見思いやりがあるように思えるよい行いが結果的に人をひどく傷つける大悪を生み出すことがあります。逆に、大善は、時として厳しく、情け容赦のない態度と誤解されることがありますが、長い目で見れば大きく成長させることになります。
子どものいいなりにものを与えたり、迎合したりする教師と、子どものことをよく考え厳しく教育する教師の違いがそれにあたります。一見、厳しすぎると思われる子どもへ教育は、長期的にみると、結局本人のためになることが多いです。子どもたち一人一人が主体的に、自分の考えをもって行動できる子どもにしなければなりません。「獅子の子落し」と、いうように子どもを一人前に育てるには、愛情に裏打ちされた厳しさが必要といえます。
学びに向かう土台作り
令和3年6月1日(火曜)
6年生では、学びに向かう土台作りのために、学級力アンケートを実施し、集計結果をレーダーチャートで表し、学級の課題は何か、どのように改善をしていけばいいのかを子どもたちが主体となって話し合っています。本校の6年生は、「学習」に課題があることがわかりました。「学習」とは、授業中に無駄なおしゃべりをしない学級に対するアンケート結果が低かったということになります。そこで、教師からあえて「学習」に課題があるとは言わずに、レーダーチャートを提示し、「どこが気になる」と問いかけました。それに対して、多くの子どもたちが「学習」と。各学級では、「学習」について、どうすればいいかを話し合いました。その中では、「無駄話をしない」という意見がありましたが、無駄な話と思うことを「発表」という形に変えてはどうかという意見やおしゃべりをしている人を注意しようなど、具体的な意見が出されました。先生から「あーしよう、こうしよう」ではなく、「自分事として」主体的に考える姿勢が生まれてきています。今回は、学級力アンケートを5月に実施したのですが、毎月1回、アンケートを実施し変容を見ていくこととしています。子どもたちがこれまで漠然と感じていた学級の課題が「見える化」され、何をどうすればいいのか、具体的な学級目標が明確となります。これまで、自分の考えを表現することが苦手だった子どもが、友だちのとのつながりを感じ、安心して自分を表現することにもつながっています。レーダーチャートを通して子どもたちの学級に対する意識を高め、子どもたちが安心して学習ができる環境を整えることが学力の向上に大きく影響するものと考えます。
更新日:2021年10月25日